大阪高等裁判所 昭和50年(ラ)345号 決定 1976年1月26日
抗告人 河合徳平
右代理人弁護士 江谷英男
右同 藤村睦美
主文
原決定を取消す。
本件を神戸地方裁判所に差戻す。
理由
一、本件抗告の趣旨と理由は別紙記載のとおりである。
二、当裁判所の判断
本件原、当審及び本案(後記のとおり)事件記録によれば、原告新和印刷株式会社、被告抗告人河合徳平外一名間の神戸地方裁判所伊丹支部昭和五〇年(ワ)第一三六号損害賠償請求事件(以下本案事件という)について、同支部裁判官天野弘は、昭和五〇年九月八日の第一回口頭弁論期日において弁論を終結し、判決言渡期日を同年九月二二日と定めたこと、本案事件の被告である抗告人は、同年九月一八日、同庁に対し、同裁判官に裁判の公正を妨ぐべき事情があると主張して同裁判官を忌避する旨の申立て(以下本件忌避申立てという)をしたこと、同年九月二二日、同裁判官は本案事件の判決言渡しをしたこと、同年九月二五日、同裁判官は、「申立人は、要するに訴訟指揮権の濫用を理由として、本案について弁論終結後忌避の申立てをなしたものであり、右本案についてはすでに判決言渡しがなされているので、申立てはその目的を失って理由なきに帰する。」旨を理由に本件忌避申立てを棄却する旨の決定(以下原決定という)をしたことの各事実が認められる。
ところで、民事訴訟法三九条は、地方裁判所の一人の裁判官に対する忌避申立てについての裁判は当該裁判官所属の裁判所が合議体においてなすべき旨を、同法四〇条は当該裁判官は右裁判に関与することができない旨を定めているので、原決定は右各条の規定に違反することが明らかである。もっとも、忌避申立てといっても、その実は忌避申立ての権利の濫用であることが明らかであるという特段の事情が認められる場合には、その忌避申立ては裁判の公正を担保するという忌避制度本来の趣旨から逸脱しているので、右各条の規定の適用を受けないこともあると解すべきであるが、本件原、当審記録及び本案記録によっては右特段の事情を認めるには至らない。
よって原決定を取消し、本件忌避申立てについて前記各条にのっとり更に審理をなさしめるため、本件を原裁判所に差戻すこととして、主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官 北浦憲二 裁判官 光広龍夫 條田省二)
<以下省略>